生活シミュレーションで育てる「聞く・話す・読む・書く」はじめての方へ本プログラムについて操作方法スタート



東京学芸大学 小池先生からのメッセージ


1.学習障害の定義について

2.困難の背景

3.支援の視点

4.最後に

 

1.学習障害の定義について

学習障害の定義には、医学上の定義としてのLD(Learning Disorders)と教育上の定義としてのLD(Learning Disabilities)の2つの側面があることが指摘されています。
医学上の定義は、世界保健機関(WHO)が定める「国際疾病分類第10版(ICD-10)」とアメリカ精神医学会が編集する「精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-W)」によって、行われています。ICD-10、DSM−Wともに、感覚障害や教育歴の問題がないにもかかわらず、知的能力から期待される読み、書き、算数(計算)の学業成績に著しい遅れを示すものを学習障害と定義しています。
教育上の定義としてのLDは、1963年にアメリカで提唱された概念であり、文部科学省の定義もこれに相当します。文部科学省の定義は、「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査協力者会議」の最終報告(1999)で示されました。以下がその定義です。

「学習障害とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困 難を示す様々な状態を示すものである。学習障害は,その原因として,中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害, 情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接的な原因となるものではない。」

最終報告の「解説」では、運動・動作の困難、行動の自己調整の困難、社会的適応性の困難まで視野に入れた配慮の必要性が指摘されました。
医学的定義では、「読み、書き、計算(推論)」という学力困難だけに限定していますが、教育的定義は、「聞く、話す」というコミュニケーションの困難まで含めており、幅広い概念であることが指摘できます。

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2. 困難の背景


読み書き困難が生じる背景については、音韻処理にかかわる障害、視覚的認知にかかわる障害、自動化にかかわる障害など、複数の仮説が提案されています。読み書き障害を持つ子どもの実態は多様であり、一つの中心仮説で説明できないようにも思われます。
英語圏における読み書き困難では、音韻処理の障害がその原因として指摘されています。音韻とは、言葉に関する聴覚的イメージです。一方、英語と日本語では、読み障害に対する音韻意識の関与の程度が異なるのではないかという研究が報告されています。

日本語では、かな文字と漢字を混在して用います。かな文字では1文字は1音節に対応します。漢字は形が複雑で、複数の読み方をもつ字があります。日本語では、音韻意識だけでなく文字の形の視覚認知や視覚記憶、さらには協調運動という多側面にわたる機能の不全が読み書き困難に関係します。

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3. 支援の視点


読み書き障害の支援を図る上では、これらの障害の背景を考慮しつつ子どもの状態を知り、指導を組み立てることが大切です。
指導を組み立てるうえで、レキシコンの形成は重要な課題となります。
レキシコンとは心内辞書とも呼ばれます。文字や単語には、読み方の聴覚的イメージや形の視覚的イメージ、意味のイメージがあります。私たちは、このレキシコンに、さまざまなイメージを持っています。
子どもにおいては、情報処理に偏りがあるために、うまくレキシコンが形成されないことが推測できます。このことから、子どもの情報処理の偏りを考慮しながら、レキシコンの形成を促すことが、発達支援の重要な課題となると考えられます。
(1)聴覚記憶が弱いLD児について
聴覚記憶が弱いLD児の学習支援について、興味深い知見があります。すなわち、「学習する内容が新しい語で、視覚的イメージを持っていない場合には、学習に先立って、新しい語に対して、視覚的イメージを持たせることで、学習が容易になる」という知見が報告されています。漢字単語の読みを指導する際に、読みについて、具体的な視覚的イメージを持たせる学習が、聴覚記憶の弱いLD児にとって効果があります。
本支援教材では、漢字の読みと書きにおいて、その言葉の視覚的イメージを持てるように配慮しました。
用意した教材は、生活単語と教科書漢字です。
生活単語は、高学年単語(300語)と中学年単語(316語)と低学年単語(122語)を選びました。教科書漢字は、1年から6年の学習漢字を対象としました。
生活単語と教科書漢字の読みについて、読みの意味と対応するイラスト(教科書漢字は1年から4年)を準備し、利用できるようにしました。
(2)視覚認知と視覚記憶が弱いLD児について
視覚認知の困難は、文字の形の異同弁別や、視空間認知の困難に関連します。視空間認知に困難があると、漢字の全体と部分の位置関係を把握することが難しくなります。また書いた字について、正しい字であるか判断することが難しくなります。
視覚認知が弱く、聴覚記憶が強い子どもでは、書く活動を言語的手がかりに置きかえる指導を利用します。「読み」が呈示されて、「書く」課題の前に、「漢字」の形を選択できるように指導します。選択が確実になった段階では、「書く」ということを学習しやすくなります。

「読み」に基づいて、実際に「書く」課題では、言語的手がかりを利用して書くことを指導する方法があります。また、ごく短時間、漢字が呈示し、その視覚記憶に基づいて「書く」ことを指導する方法があります。いずれを取るかは、子どもの情報処理の特性に基づいて、指導を組み立てます。

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4. 最後に


学習支援においては、「自分で容易に実行できる量の練習や努力によって、改善が得られるのだ」ということに気づかせることが大切です。文字や技能の改善を適切に伝えることによって、指導が、子どもにとって見通しが持てる指導になります。この支援教材に加えて、さらに子どもに適した教材を活用し、読み書きの学習が、子どもにとって対処不可能な課題ではなくなるよう、指導を組み立てて下さい。

 

そのためには、子ども・親と支援者との間に、学習支援に関して信頼感が形成されることが要であり、学習支援する際の根拠を説明できることが大切である。

 

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