ソーシャルスキルとウェッブ教材

(上野一彦)

 私たちは常に人間社会の中で、他の人と関わりながら生きていきます。高度な意思伝達の手段であるコミュニケーション能力だけでなく、他の動物とは比べものにならぬほど豊かな感情を理解し表出する能力をもつのは、そうした高度な社会的関わりを必要としているからです。
 人がさまざまな人間関係のなかで生活し、経験を積むなかで、周りの人の意図や感情などをより正確に理解し、その人の立場に立ってもの事を考える力や自分の行動や感情をコントロールする力、そして必要に応じて行動のパターンを変えていく力などを育てていきます。そうした力は、人が人として社会のなかで生きていく基本的な社会的能力(ソーシャルスキル)と呼ばれます。

 今日、少子化が進むなか、ひとびとが必要とする対人的な関わりにも大きな変化の兆しが見られます。家庭での同胞の数は減り、本来、学ぶ可能性のあった最初の社会的経験も少なくなりました。反対に、子育て経験の少ない親との濃密な関係による過干渉や子育ての不安の増加といった現象も目立ってきているのです。
 学校でも、いじめ、不登校、校内暴力、授業崩壊など、悲しいことですが、日常的に起きています。子どもを取り巻く生育環境においても、こころや身体、あるいは無視といった虐待に関係するニュースも後を絶ちません。そうした環境で育った子どもが親となり、そしてまた子育てをするのですから、その連鎖の輪は常に教育という営みによって影響され続けるわけです。

 今日、そうした変化のなかで多くの子どもたちがソーシャルスキル指導を求めています。ソーシャルスキルの指導は、現代社会においてはすべての子どもたちに必要な指導領域であるということができます。そうした背景の中で、とりわけ適応や社会自立に課題をもちがちな子どもたちの場合はさらにその重要さは増します。
 LD、ADHD、高機能広汎性発達障害(高機能自閉症・アスペルガー症候群)など、いわゆる「軽度発達障害」と呼ばれる子どもたちは、二つの理由でソーシャルスキルの指導が必要であるといわれます。

 ひとつは自閉症関連の子どもたちやLDの一部には、社会的な認知というものが育ちにくい発達的特性を本来的にもっている子どもたちがいます。そのこと自体が、それら障害が理解と特別な支援が必要な特徴でもあるのです。
 もうひとつの理由は、軽度発達障害は、軽度ゆえに理解されにくく不適切な対応に出合うことも多いのです。またその特徴を個性として理解しようにも、かなり際立った個性のために、さまざまな不適応を引き起こしたり、結果として社会性の発達にも支障をきたしたりすることも少なくありません。

 ADHDのある子どもたちの場合、自分をコントロールすることがもともと苦手であるのですが、乱暴だ、何をするか予想がつかないなどと思われ、そのことが不適切な行動につながり、さらに周囲から特異視されるといった悪循環に陥りやすいのです。
このように一次的に、また二次的に、社会性が育ちにくい子どもたちなので、ソーシャルスキルのトレーニングがいっそう重要でありどうしても必要なのです。

 1980年代からさまざまなソーシャルスキルの指導法が、彼らに試みられさまざまな指導法、教材が提供されてきました。今回、ここに開発する教材はそれらとは一線を画します。
 現代はまさにコンピューター時代であり、子どもたちのまわりでもどんどん日常化してきています。

 このウェッブ教材は、そうした時代を反映し、まず指導にあたる先生、そしてそれを利用する子どもたちが、的確に、そして何よりも楽しく、わかりやすい指導が展開できるように工夫されています。これからの教育のモデル開発でもあるのです。
 すべての子どもたちが社会の中で、おたがいを気づかいながら、たくましく育っていくことをこころから願いながら、この教材を皆さんにお届けします。

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